セレンディピティ編 「ペニシリン」


【前回のあらすじ】

フレミングは細菌の増殖を抑える物質を見つけようとしていたが、偶然にも自分自身の体液に溶菌活性物質が含まれていることを発見した。

1921年の12月、フレミングはこの研究について研究発表を行ったが、聴衆からはまったく相手にされなかった。



       ____
     /      \
   /  _ノ  ヽ、_  \
  /  o゚⌒   ⌒゚o  \  研究発表では誰も質問してくれなかったお…
  |     (__人__)    |
  \     ` ⌒´     /



       ____
     /⌒  ⌒\
   /( ●)  (●)\     でも、そんなこと気にしないお。
  /::::::⌒(__人__)⌒::::: \
  |     |r┬-|     |    溶菌物質の研究を続けるんだお。
  \      `ー'´     /


アレクサンダー・フレミング(Alexander Fleming, 1881- 1955)





フレミングたちは溶菌物質の性質について調べ始めた。

この溶菌物質は70℃になると破壊され、またアルコール、アセトン、ピクリン酸など、タンパク質を沈殿させる試薬によって溶菌物質が沈殿することが分かった。

この結果から、溶菌物質は酵素の一種だろうとフレミングは考えた。





     ____
   /      \
  /  ─    ─\   溶菌物質はきっと酵素の一種だお。
/    (●)  (●) \
|       (__人__)    |
/     ∩ノ ⊃  /
(  \ / _ノ |  |
.\ “  /__|  |
  \ /___ /


*酵素は化学反応を促進する有機性の触媒のこと。
 普通タンパク質でできていて、それ自体が変化することはない。
 酵素は生物によって作られ、生命にとって不可欠な化学反応のほとんどに関与している。





しかし、細菌学を専門としていて化学の知識がなかったフレミングには、溶菌物質を純粋に精製することはできなかった。

だから溶菌物質が本当に酵素なのか確かめることはできなかったのである。





     ____
   /      \ ( ;;;;(
  /  _ノ  ヽ__\) ;;;;)  酵素かどうか確認したい…でもできない…
/    (─)  (─ /;;/
|       (__人__) l;;,´    どうやって溶菌物質を精製すればいいんだお?
/      ∩ ノ)━・'/
(  \ / _ノ´.|  |
.\  "  /__|  |
  \ /___ /







溶菌物質が酵素かもしれないという仮説はライトにも伝わった。






            , '´  ̄ ̄ ` 、
          i r-ー-┬-‐、i
           | |,,_   _,{|
          N| "゚'` {"゚`lリ
             ト.i   ,__''_  !    フレミング君、溶菌物質は酵素なのかい?
          /i/ l\ ー .イ|、
    ,.、-  ̄/  | l   ̄ / | |` ┬-、
    /  ヽ. /    ト-` 、ノ- |  l  l  ヽ.
  /    ∨     l   |!  |   `> |  i
  /     |`二^>  l.  |  | <__,|  |
_|      |.|-<    \ i / ,イ____!/ \
  .|     {.|  ` - 、 ,.---ァ^! |    | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄l
__{   ___|└―ー/  ̄´ |ヽ |___ノ____________|
  }/ -= ヽ__ - 'ヽ   -‐ ,r'゙   l                  |
__f゙// ̄ ̄     _ -'     |_____ ,. -  ̄ \____|
  | |  -  ̄   /   |     _ | ̄ ̄ ̄ ̄ /       \  ̄|
___`\ __ /    _l - ̄  l___ /   , /     ヽi___.|
 ̄ ̄ ̄    |    _ 二 =〒  ̄  } ̄ /     l |      ! ̄ ̄|
_______l       -ヾ ̄  l/         l|       |___|

        オームロス・ライト(Almroth Wright 1861-1947)






                         ___
                       /   ヽ、_ \
                      /(● ) (● ) \   う~ん、まだ確証はないんだお。
                    /:::⌒(__人__)⌒::::: \
                    |  l^l^lnー'´       |  でもたぶん酵素だと思うお。
                    \ヽ   L        /
                       ゝ  ノ
                     /   /





    〃                 i,
   r'   ィ=ゝー-、-、、r=‐ヮォ.〈
    !  :l      ,リ|}    |. }  いや、きっと酵素に違いない。
.   {.   |          ′    | }  僕はこの酵素の名前を考えてきたんだ。
    レ-、{∠ニ'==ァ   、==ニゞ<  この酵素の名前はリゾチームだ。
    !∩|.}. '"旬゙`   ./''旬 ` f^|
   l(( ゙′` ̄'"   f::` ̄  |l.|  どうだい? いい名前だろう。
.    ヽ.ヽ        {:.    lリ
.    }.iーi       ^ r'    ,'
     !| ヽ.   ー===-   /
.   /}   \    ー‐   ,イ
 __/ ∥  .  ヽ、_!__/:::|\








こうしてフレミングが発見した溶菌物質はライトによって命名され、リゾチーム(ライソザイム Lysozyme)と呼ばれるようになった。

これはギリシア語で溶菌することをあらわすlyserと、酵素をあらわすenzymeにちなんだ名前だった。






     ____
   /      \
  /  ─    ─\   リゾチームか・・・
/    (●)  (●) \
|       (__人__)    |
/     ∩ノ ⊃  /
(  \ / _ノ |  |
.\ “  /__|  |
  \ /___ /





フレミング達は引き続いてリゾチームの研究を行った。

この研究を続けるには、当然のことながら、リゾチームの確実な供給源が必要だった。

リゾチームは涙に含まれていることが分かっていたので、フレミングたちは自分の目にレモン汁をたらして、涙を採取した。







       ____
     /      \
   /  _ノ  ヽ、_  \
  /  o゚⌒   ⌒゚o  \  涙に含まれているリゾチームを採取するんだお。
  |     (__人__)    |
  \     ` ⌒´     /





やがてフレミングは自分を訪ねてきた訪問客達からも涙を採取するようになった。

このため、フレミングの訪問客達はレモン汁の責め苦を受けねばならなくなった。






     
           ,-‐~‐-、,
         y´;;;:::    ~ ̄´ゞヽ,
        ノ;;;:::::       ,-‐-、,:}
       /;;;;;:::::      ⊂ニ~ヾ、ゞ
       μ;;;;;:::     ,-‐―-、`ヽヾ,   目があぁぁぁぁぁ~~~~!!!
       |;;;;;;;;;;:::::    `ー--、`ヾ' l
       ヽ;;;;;:::::/~ヽ, ;;;,_,-‐―’   ノ    レモン汁~~~~!!!
       ヾ;;;;;λpιノヾ-―ヽ、   ノ
     ノへゝ;;::ヾ、~       J  /
     、::\\ 々    -、._/   `ゝー-
     ヽ:::::::\\ヽ   ;:´⌒人、_ / |:::::::::::::
     ヽヽ::::::::\ヾ  ‘ヾ〃ヽ、/   ノ::::::::::::::
     ::::\ゞ::::::::ヽ`>、,_ノ:::::::ヽ、 /::::::::::::::::
     :::::::::::`‐ー-Y;;;_ヽゞ)、__ゝt__:::::::::::::::
     ::::::::::::::::::::::/~::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: ̄~ ̄

        フレミングの訪問客
     










それでもリゾチームが足りないので、フレミングは子供たちを買収して、1回につき3ペンスで泣いてもらった。





                ____
              /⌒  ⌒\
            /( ●)  (●)\     さぁ、子供たち。
           /::::::⌒(__人__)⌒::::: \
           |     |r┬-|     |   3ペンスあげるから泣いてくれお。
           \      `ー'´     /
           ノ.:!:.:.:.:`ゞ-<7.:〉.:.:.:i.:.:}
  __  _,,, /.:.:/:.:.:.:.:.:| }-{/i.:/.:.:.:.:|.:/
 | 五円 }と_」.:/!.:.:.:.:.:.:.!  ̄ リ.:.:.:.:.:り
    ̄ ̄    ̄  |.:.:.:.:.:./_ :__ヽ.:.:.:.:\
            \/.:.::..:.:.:.:.:.:..:\:.::./
           /.:.:.:.:.:.:.「^Y.:.:.:.:.:.:|´
            {.:.:.:.:.:.:.:.| ,!.:.:.:.:.:.:|
             \.:.:.:.:.:.V.:.:.:.:.:.:.:
             \.:.:.::|.:.:.:.:.:.:.:!
               > 'ゝ─‐イ、
               `ー' ``''ー‐'




        , ' /:::::::/!::::::l:::l l:::::::::ハ::::::::::i!:::::`ヽ、
       , ' /::::::::::/ |:::::l|::l  l::::::/ !:::::::| !:::::ハ:::::\ ' ,
         /イ:/|::::/  !i::l l|  |:::/  l::::::! l::::i l:::::::⊥
       / '::::/ |::/  |l:| l|   、|/_,. -!:::| !/  l:::(__ )、' ,
       , ' /::::/、」ムノ   !| !   手咋≧=、|  ノ ( l::(_ )::\ ' ,
        ; i:ハl 7》示气      }㌫込_タ冫 ⌒ |:::フ´ヽ::::::\
       ; _」| リ 戈㏍少′r 、     ゙≠宀⌒ヽ\   レ' /⌒ヽ:::::::::ヽ
      /:::::|   し´ ̄    ハ _  -‐ へ、//U //  !   !ヘ:::::::::::ヽ
    /:::Y´! ///// 「 ̄ ̄ | |___  -‐ ´ ヽ  ハ    l   l ハ::::::::ヘヽ
    ,::::::ハ l  U   l ̄ ̄ | |          ゙、 し   ヽ- ' ノ }:::::/ヽノ(
    l::::::| ヽヘ       !    J           i    ィー冖ー一^″    -イ
    l::::::|  `゙、U     l             } U、┴’                {
    ヽ:::|  ' , ト 、   l         __ノ イiハ     )  あ  ぶ  }
      ヽ!     U ` ‐- 二  ̄ ̄ ̄ ∪    /  \   (    あ  あ  |
             ' '  ' _ -7¨´     /    _」    )   あ   ぁ   、
                 仄´  /    r ニ       \  (    あ  あ   〉
             | ヽ /  __  //  ヽ      / } !!  あ  あ  (
             |  ヽ`¬┌''´ノ     \  / 亅           冫

                買収された子供








しかし、リゾチームについての研究を続けるうちに、フレミングは卵の白身にリゾチームが大量に含まれていることに気付いた。





    ./ ,r' ´  ̄ ̄ `'' ‐-r--、     r=ニフ´  ̄ ̄ ~`` ‐、 \
   /      ,r--‐''‐ 、.._,,二フ-、  ,. -‐゙ー-‐ ''、'ー--''-_、     \
 /       /     , '´    ,.イ ヽ__     }ノ´二 -‐ヽ._    \
        {       i     >{    L    ,'ー 'ー ''´ ̄}
         ト、     !.     〈/     }   /      ,.イ
         ヽ、___ヽ、  ./ カパッ   ̄レ'   _, ‐'
  、             " `,二ヽ!        r''二  ̄
    ` ‐- 、..__,. -‐─┴─'         ゙─‐'--''─- 、..___ ,.
                    ∥∥
                    ∥∥
                   ,,.. -―- ..,,
                 /\   /\
                ./ (ヒ]   ヒン) ヽ  リゾチームたっぷりさ。
                { '"  ,__,  "' .}
                \   ヾ_ノ   /   涙の200倍の濃度だよ。
                  `ー-----ー^







卵の白身や黄身は微生物が増殖するのに最高の環境だが、微生物は卵の殻を簡単にすり抜けてしまう。




    ./ ,r' ´  ̄ ̄ `'' ‐-r--、     r=ニフ´  ̄ ̄ ~`` ‐、 \
   /      ,r--‐''‐ 、.._,,二フ-、  ,. -‐゙ー-‐ ''、'ー--''-_、     \
 /       /     , '´    ,.イ ヽ__     }ノ´二 -‐ヽ._    \
        {       i     >{    L    ,'ー 'ー ''´ ̄}
         ト、     !.     〈/     }   /      ,.イ
         ヽ、___ヽ、  ./ カパッ   ̄レ'   _, ‐'
  、             " `,二ヽ!        r''二  ̄
    ` ‐- 、..__,. -‐─┴─'         ゙─‐'--''─- 、..___ ,.






卵が様々な微生物の侵入に晒されながら何日も無菌の状態を保っていられるのは、リゾチームが豊富に含まれているおかげである。





                   ,,.. -―- ..,,
                 /\   /\
                ./ (ヒ]   ヒン) ヽ
                { '"  ,__,  "' .}   卵はすごいんだぞ!
                \   ヾ_ノ   /
                  `ー-----ー^




卵白のリゾチームは涙のリゾチームの200倍の濃度があるということが分かったので、フレミングたちは卵白のリゾチームを研究に用いるようになった。




       ____
     /⌒  ⌒\
    /( ●)  (●)\
  /::::::⌒(__人__)⌒:::::\   良いリゾチームの供給源が見つかったお。
  |      `ー'´     |
  /     ∩ノ ⊃  /
  (  \ / _ノ |  |
  .\ “  /__|  |
    \ /___ /






研究の結果、涙に含まれるリゾチームの2倍の濃度なら、病原性のあるブドウ球菌やレンサ球菌なども殺せることが分かった。





                             / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
       (´ヘ`)(´ヘ`)(´ヘ`)(´ヘ`)(´ヘ`) < 2倍濃度はキツイ・・・。
                             \_________
           レンサ球菌





                   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
          __  。    < リゾチームで体が溶けちゃった。
      c _/。。ヽ_。 ゚    \________________
       ∠___▽____ ~ヽ c
     ~ ~
        レンサ球菌






そして、フレミングはウサギに卵白の溶液を静脈注射して、血中リゾチーム濃度がどのように変化するか測定し、副作用の有無を確認しようと試みた。






     ∩
     | | /二つ
    (,,゚Д゚)   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   /  |  <   卵白の静脈注射なんて気持ち良いもんじゃないね。
  C(,,__vv   \_____________________







この結果、一時的にではあるが血中リゾチーム濃度は上昇した。

しかし、6時間後には元に戻ってしまい、リゾチームは急速に排泄されてしまうようだった。

一方で、とくにこれといった副作用は見られなかった。





   ∩
   | | /二つ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   (,,゚Д゚)  < リゾチームの副作用はありません!
   | vv    \_______
  C|  |
   し^J









これらの結果から、リゾチームに敏感な微生物によって引き起こされた感染症には、卵白溶液の静脈注射が有効であるとフレミングは報告した。





               ∩_
              〈〈〈 ヽ
      ____   〈⊃  }
     /⌒  ⌒\   |   |   卵白の静脈注射が有効な感染症も
   /( ●)  (●)\  !   !
  / :::::⌒(__人__)⌒:::::\|   l   もしかしたらあるかもしれないお。
  |     |r┬-|       |  /
  \     ` ー'´     //
  / __        /
  (___)      /








ただし、血中リゾチーム濃度を高いまま保つには、何度も卵白溶液を静脈注射する必要があった。

その場合、どうしてもアレルギーの問題が発生してしまう。

アレルギーの危険を伴わずに続けて何回も静脈注射を行うには、卵白からリゾチームだけを精製することが不可欠だった。





   ∩
   | | /ニつ   アレルギーが恐いから
   (; ゚Д゚)
   | つつ    今度から注射するのはリゾチームだけにしてね。
  C|  |
   し^J








しかし、細菌学を専門としていて化学の知識がなかったフレミングには、リゾチームを純粋に精製することはできなかった。





     ____
   /      \ ( ;;;;(
  /  _ノ  ヽ__\) ;;;;)  リゾチームを精製したい…でもできない…
/    (─)  (─ /;;/
|       (__人__) l;;,´    どうやってリゾチームを精製すればいいんだお?
/      ∩ ノ)━・'/
(  \ / _ノ´.|  |
.\  "  /__|  |
  \ /___ /







結局、フレミングたちのリゾチーム研究は堂々巡りになり、これ以上進展することはなかった。

フレミングたちはリゾチームの研究に数年を費やしたが、リゾチームを精製することはついにできなかった。





                     ___
                   /   ヽ、_ \
                  /(● ) (● ) \
                /:::⌒(__人__)⌒::::: \  無念だお・・・
                |  l^l^lnー'´       |
                \ヽ   L        /
                   ゝ  ノ
                 /   /





また、アリソン研究員もリゾチームについての研究結果を学位論文にまとめて、フレミングの元から巣立っていった。





                  /\___/ヽ
                 /''''''   '''''':::::::\
                . |(●),   、(●)、.:| +
                |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
              .   |   `-=ニ=- ' .:::::::| +  。
                 \  `ニニ´  .:::::/
              ,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、.    フレミング先生、色々お世話になりました。
              :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
                  |  \/゙(__)\,|  i |
                  >   ヽ. ハ  |   ||

                  アリソン研究員









やがてフレミングは別の仕事に取りかかり始めた。それは専門書の執筆である。

当時、フレミングは「細菌学大系」という分厚い専門書のブドウ球菌に関する記事を書くことを要請されていた。





      (‘ヘ‘)(‘ヘ‘)(‘ヘ‘)(‘ヘ‘)
       (‘ヘ‘)(‘ヘ‘)(‘ヘ‘)    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         (‘ヘ‘)(‘ヘ‘)     < あなたの鼻の穴の中にもいます。
           (‘ヘ‘)        \_____________
             ̄

          ブドウ球菌(黄色ブドウ球菌など)   





その専門書の記事を書くためにフレミングは多くの論文を読み、実験も行った。





      /  ̄ ̄ ̄\
     /  ⌒  ⌒ \
   /  (●)  (●) i         ブドウ球菌のことなら任せてくれお!
.    |  :::⌒(__人__)⌒:|     __
    \    `ー' / ̄ ̄⌒/⌒   /
   (⌒\    / 論文 /    /
   i\  \ ,(つ    /   ⊂)
   .|  \  y(つ___/,__⊆






論文をいくつも読むうちに、フレミングはブドウ球菌のコロニー(細菌集落)の色の変化を扱った一つの論文を見つけた。



      (‘ヘ‘)(‘ヘ‘)(‘ヘ‘)(‘ヘ‘)
       (‘ヘ‘)(‘ヘ‘)(‘ヘ‘)    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         (‘ヘ‘)(‘ヘ‘)     < 食中毒を起こします。
           (‘ヘ‘)        \_____________
             ̄

          黄色ブドウ球菌




Agar_plate_with_colonies

寒天培地上のコロニー






病原性のある黄色ブドウ球菌は固形培地上で、通常は鮮やかな黄色いコロニーをつくる。

しかし、黄色ブドウ球菌を植えてから24時間恒温器の中で培養し、それから室温で数日放置すると、コロニーの色が変化することが論文で示唆されていた。この色の変化はブドウ球菌が変異したことを示しており、フレミングはその変異株の病原性に注目したのである。




       ____
     /⌒  ⌒\
    /( ●)  (●)\
  /::::::⌒(__人__)⌒:::::\   コロニーの色が変わっても有害なままなのかお?
  |      `ー'´     |
  /     ∩ノ ⊃  /
  (  \ / _ノ |  |
  .\ “  /__|  |
    \ /___ /




フレミングは研究生のプライスに手伝ってもらい、自分でもブドウ球菌の変異株について研究することにした。


              _
             /O \
              |. °  |
             \_,/
             /
.     / ̄ ̄ ̄ ̄ \    フレミング先生、よろしくお願いします。
.   /             \
   /   \         ヽ
.  /   ●          |
  | 、_,、_, ⊂⊃        |
  ヽ {_ノ           /
   \            /
  (`ヽ l三三三三三三三l
  ヽ、/          ヽ

    プライス研究員





フレミングたちは鼻、のど、皮膚の感染部や膿を採取して寒天培地になすりつけ、恒温器で2~3時間培養した。




          ____
        /⌒  ⌒\ ホジホジ
      /( ●)  (●)\
     /::::::⌒(__人__)⌒::::: \   ブドウ球菌を培養するんだお。
     |    mj |ー|しm    |
     \  〈__ノ   \__} /
       ノ  ノ   \ \




それから恒温器から培地を出して培養を打ち切り、室温でコロニーの色がどのように変化するか観察していた。

実験台の上にはブドウ球菌が培養された寒天平板培地が積み上げられ、フレミングたちは何が起こるか見るために2~3日おきに観察を続けた。





                    目目
                   目目目
                 目目目目目
               目目目目目目目
   l\ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄目目目目目目目目\
   l\\                      \
   l」 \!二二二二二二二二.二二二二二二二i
      || |                          || |
      l| |                          l| |






1928年2月、プライス研究員は司法解剖を学ぶため、フレミングの元を去った。



                           _
                          /O \
                           |. °  |
                          \_,/
                          /
             .     / ̄ ̄ ̄ ̄ \
             .   /             \     ちょっと司法解剖を勉強してきます。
                /   \        ヽ
             .  /   =    u      |    フレミング先生、後はお願いしま~す。
               | 、_,、_, ⊂⊃        |
               ヽ {_ノ           /
                \            /
               (`ヽ l三三三三三三三l
               ヽ、/     ___ ヽ





       ___
     /   ヽ、_ \
    /( ●) ( ●) \
  /:::⌒(__人__)⌒::::: \   そうかお。残念だお。
  |  l^l^lnー'´       |
  \ヽ   L        /
     ゝ  ノ
   /   /





プライス研究員がいなくなった後もフレミングは実験を続け、やがて季節は夏になった。

この頃にはプライス研究員の後任として、クラドック研究員がフレミングの元に来ていた。




  ∧_∧
 ( ´_ゝ`)   フレミング先生、よろしくお願いします。
 (    )
 | | |
 (__)_)

クラドック研究員





7月の終わり、既に結婚して一児の父親になっていたフレミングは、夏休みを家族と一緒に別荘で過ごす予定を立てていた。


       ____
     /⌒  ⌒\     夏休みは家族水入らずだお。
   /( ●)  (●)\
  /::::::⌒(__人__)⌒::::: \   さっさと実験を終わらせるお。
  |     |r┬-|     |
  \      `ー'´     /






フレミングはブドウ球菌の培地を何枚かつくり、恒温器に入れようとした。




                    ___
                  /   ヽ、_ \
                 /(● ) (● ) \
               /:::⌒(__人__)⌒::::: \   でも、恒温器の中がもう満杯だお。
               |  l^l^lnー'´       |
               \ヽ   L        /   シャーレを入れるスペースがないお。
                  ゝ  ノ
                /   /






                   ___
                 /      \
          .       /          \
              /            \       恒温器の中を整理するなんて面倒だお。
              |             |   /⌒)
                \            / / /   面倒だからこのまま実験台の上に放置するお。
                  >        </ /
               γ´             /      クラドック君、後のことは頼んだお。
          .     / /、:::..  、      /
             / / ):::..       |
          .  / / /   ,      /
          . `一'   i   |     |
                ヽ_,ヽ__,  |
          .       /  / \   ヽ
                /  /   ノ  ,ノ
          .     /  /   (___/
                {  /
                ゝ-´







  ∧_∧
 ( ´_ゝ`)   ・・・・・
 (    )
 | | |
 (__)_)

クラドック研究員







フレミングは恒温器に入りきらなかったブドウ球菌のシャーレの何枚かを、そのまま実験台の上に放置した。




                     ・~
               目目目
   l\ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄目目目目 ̄ ̄ ̄ ̄\
   l\\                      \
   l」 \!二二二二二二二二.二二二二二二二i
      || |                          || |
      l| |                          l| |






この時、その放置されたシャーレの一つに何処からかカビの胞子が混入した。

しかし、そんなことは露ほども知らず、フレミングは夏のバカンスへと出発した。





                     _____
           r⌒ヽ、   .  / ー  ー\
          / \  \. / ( ●) ( ●)
         _/ / ヽ   /     (__人__) \
        〈__/  . |  |       ` ⌒´   | バカンスに行ってくるお!
             /  .\     i⌒\   /
            ./   / ⌒ヽ, _.ヽ  .\/
        .__   r  /     |/ー、\   \
       ."ヽ |  i,        ノ   .\^   i
         .| ヽ./ ヽ、_../   /     .  ヽ、__ノ
         .i /  //  ./
         .ヽ、_./ ./  /
             ./ /
           .ノ.^/   ダッ
           |_/







フレミングは休暇に行く前にたくさんの寒天平板培地を実験台の端に積み上げておいた。

そこは日光が当たらず、クラドック研究員にも触れられることのない場所だったという。

恒温器に入りきらずに放置された培地も、他のいらなくなった寒天培地に紛れ込み、やがて捨てられる運命のはずだった。






                    目目
                   目目目
                 目目目目目
               目目目目目目目
   l\ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄目目目目目目目目\
   l\\                      \
   l」 \!二二二二二二二二.二二二二二二二i
      || |                          || |
      l| |                          l| |







この年の7月26日から8月6日にかけて、ロンドンでは最高気温が16~20℃という低温の期間が続いた。



     夏なのに寒いぽ・・・
        V
       __,,..,,,,_        _,,..,,,,_
      / ・ω・ヽ      /・ω・ ヽ < 寒いぽ・・・
      l      l      l      l
      `'ー---‐´     `'ー---‐′

           __,,..,,,,_
          ./    ヽ < 寒いぽ・・・
          l      l
          `'ー---‐´





そしてこのとき、恒温器に入りきらずに放置されていたシャーレの一つである変化が起きた。




                 _┌┐   ,.、
               | | l「`l / 〉
              「 ヽ、| | |__,レ′/  僕はアオカビ。
                \ ` '′     l
                  } ・      ・ |   放置されてた培地に入っていたんだ。
              { ┌──‐┐ }
             '、└─ ─┘ノ   気温がちょうどいいので、かもすぞー。
                 `丁 ̄ト、´
                ´ |__j

         アオカビ(Penicillium notatum






カビはフレミングが作った培地に頻繁に混入して培地を汚染していた厄介者だった。

放置されたブドウ球菌のシャーレに偶然まぎれ込んでいたアオカビの胞子が、低い気温によって発芽し、増殖し始めたのである。




                 _┌┐   ,.、
               | | l「`l / 〉
              「 ヽ、| | |__,レ′/
                \ ` '′     l  僕は低めの気温でもへっちゃらなんだ。
                  } ・      ・ |
              { ┌──‐┐ }   冷蔵庫の中でもかもすよ。
             '、└─ ─┘ノ
                 `丁 ̄ト、´
                ´ |__j

         アオカビ(Penicillium notatum







一般的に、カビは25℃程度の低い気温を好み、一週間ほどかけてゆっくりと増殖する。

これに対してブドウ球菌などの細菌は35℃くらいの高い気温を好み、1~2日程度で増殖する。

コンタミしたアオカビが培地上で増殖を始めた時、ブドウ球菌たちは寒くてまだ増殖することができていなかった。






           (´ヘ`)(´ヘ`)(´ヘ`)(´ヘ`)
            (´ヘ`)(´ヘ`)(´ヘ`)     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
              (´ヘ`)(´ヘ`)     <  寒くてかもせませーん。
                (´ヘ`)         \_________
                  ̄
             黄色ブドウ球菌   







8月7日以降からは最高気温が25~26℃に達する暖かい日が続いた。





      暑いぽ!
        V
            ブワッ        ブワッ
      、ヾ''""ツ,       、ヾ''""ツ,
      / ・ω・ヽ !  ! /・ω・ ヽ  < 暑いぽ!
      l      l      l      l
      `'ー---‐´      `'ー---‐′
                ブワッ
          、ヾ''""ツ,
          ./    ヽ ! < 暑いぽ!
          l      l
          `'ー---‐´






気温が上がったので、ブドウ球菌たちが一気に増殖し始めた。





      (‘ヘ‘)(‘ヘ‘)(‘ヘ‘)(‘ヘ‘)
       (‘ヘ‘)(‘ヘ‘)(‘ヘ‘)    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         (‘ヘ‘)(‘ヘ‘)     < 暖かくなってきたから、かもすぞー
           (‘ヘ‘)        \_____________
             ̄
         黄色ブドウ球菌   






このとき、シャーレの中で先に増殖していたアオカビと、後から増殖し始めたブドウ球菌との間で戦いが始まった。




                                _┌┐   ,.、
                              | | l「`l / 〉
                             「 ヽ、| | |__,レ′/   何だお前ら。
                                \ ` '′     l
                                 } ・      ・ |    ここは俺が先に住んでいた所なんだ。
                             { ┌──‐┐ }
                            '、└─ ─┘ノ    お前らにやる土地はないよ。
                                `丁 ̄ト、´
                               ´ |__j

                        アオカビ(Penicillium notatum





      (‘ヘ‘)(‘ヘ‘)(‘ヘ‘)(‘ヘ‘)
       (‘ヘ‘)(‘ヘ‘)(‘ヘ‘)    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         (‘ヘ‘)(‘ヘ‘)     < うるさい。かもせかもせー
           (‘ヘ‘)        \_____________
             ̄
        黄色ブドウ球菌





                               _┌┐   ,.、
                             | | l「`l / 〉
                            「 ヽ、| | |__,レ′/
                               \ ` '′     l
                                } ・      ・ |  ふーん。
                            { ┌──‐┐ }  そういう態度なら・・・殺すよ。
                           '、└─ ─┘ノ
                               `丁 ̄ト、´
                              ´ |__j

                      アオカビ(Penicillium notatum





やがて、9月になり夏休みも終わったので、フレミングは実験を再開した。


               ∩_
              〈〈〈 ヽ
      ____   〈⊃  }
     /⌒  ⌒\   |   |    研究再開だお!
   /( ●)  (●)\  !   !
  / :::::⌒(__人__)⌒:::::\|   l
  |     |r┬-|       |  /
  \     ` ー'´     //
  / __        /
  (___)      /







9月3日の朝のこと、以前フレミングの元で実験を手伝っていたプライス研究員がたまたまフレミングのところにやってきた。




                           _
                          /O \
                           |. °  |
                          \_,/
                          /
             .     / ̄ ̄ ̄ ̄ \
             .   /             \
                /   \         ヽ
             .  /   ●          |    フレミング先生、お久しぶりです。
               | 、_,、_, ⊂⊃        |
               ヽ {_ノ           /     ブドウ球菌の研究の調子はどうですか?
                \            /
               (`ヽ l三三三三三三三l
               ヽ、/          ヽ

                 プライス研究員






このとき、フレミングは夏休みの間じゅう実験台の上に放っておいた寒天培地を一つ一つ調べては、殺菌剤の入った底の浅い容器の中に積み重ねて入れていた。その殺菌剤に漬ければ、病原性のあるブドウ球菌が死んでしまい、シャーレを洗う人にも安全だったのである。






                     目
                   目目目
         _____    目目目目
   l\ ̄ 〔_`―――‐'〕  ̄目目目目目 ̄\
   l\\    ̄ ̄ ̄               \
   l」 \!二二二二二二二二.二二二二二二二i
      || |                          || |
      l| |                          l| |




       ____
     /⌒  ⌒\
   /( ●)  (●)\
  /::::::⌒(__人__)⌒::::: \   プライス君、久しぶりだお。
  |     |r┬-|     |
  \      `ー'´     /






フレミングはプライスがいなくなってから自分が進めた仕事の内容について話をして、培地を見せ始めた。




       ____
     /⌒  ⌒\      こんな感じにブドウ球菌のコロニーをつくって、
   /( ―)  (―)\     まだ色の変化を観察し続けているんだお。
  /::::::⌒(__人__)⌒::::: \
  |              |   君がいなくなってから毎日大変なんだお。
  \               /





                               _
                              /O \
                               |. °  |
                              \_,/
                              /
                 .     / ̄ ̄ ̄ ̄ \
                 .   /             \
                    /   \         ヽ   いやーどうもすみません。
                 .  /   ●          |
                   | 、_,、_, ⊂⊃        |   先生も色々大変ですねー。
                   ヽ {_ノ           /
                    \            /
                   (`ヽ l三三三三三三三l
                   ヽ、/          ヽ

                     プライス研究員




       ____
     /⌒  ⌒\
   /( ―)  (―)\    もっと色々な培地があるんだお。
  /::::::⌒(__人__)⌒::::: \
  |              |  こっちの培地も見てみるかお?
  \               /







フレミングはプライスに別のシャーレを見せようと、殺菌剤の入った容器から別のシャーレを取り出した。

そのシャーレを手に取ってプライスに渡そうとした時、フレミングはある異変に気付いた。






     /.: ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ \
    /: : :             \
  /: : : :            \
/: : : : : :               \
: : : : : : : :.._        _      \
: : : : : : : ´⌒\,, ;、、、/⌒`        l
: : : : ::;;( ● )::::ノヽ::::::( ● );;:::    |
: : : : : : ´"''",       "''"´       l
: : : : : : . . (    j    )/       /  これは変わっている。
\: : : : : : :.`ー-‐'´`ー-‐'′    /
/ヽ: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : イ\
: : : : : : : : : :.``ー- -‐'"´        \
: : : : . : : . : : .                   \





フレミングが手に取ったそのシャーレは偶然殺菌剤の液面よりも高く積み上げられていたので、殺菌剤には浸っていなかった。





そのシャーレの中には、大きなカビのコロニーがあった。

カビはフレミングが作った培地に頻繁に混入して培地を汚染していた厄介者だった。




                 _┌┐   ,.、
               | | l「`l / 〉
              「 ヽ、| | |__,レ′/
                \ ` '′     l
                  } ・      ・ |
              { ┌──‐┐ }   勝手に入り込んじゃった。
             '、└─ ─┘ノ
                 `丁 ̄ト、´
                ´ |__j

        アオカビ(Penicillium notatum





しかし、このときフレミングが見たカビはいつもと様子が違っていた。

大きなカビのコロニーの周りではブドウ球菌のコロニーが生えていなかったのである。





Staphylococcus_aureus_(AB_Test).jpg

アオカビのコロニーがブドウ球菌の生育を阻止するイメージ図
(フレミングが実際に見たものはこれとは全く異なる)






                 _┌┐   ,.、
               | | l「`l / 〉
              「 ヽ、| | |__,レ′/
                \ ` '′     l
                  } ・      ・ |
              { ┌──‐┐ }  ブドウ球菌どもを始末しました。
             '、└─ ─┘ノ
                 `丁 ̄ト、´
                ´ |__j

        アオカビ(Penicillium notatum






これが人類の目の前に初めて現れた抗生物質「ペニシリン」の姿であった。





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